« 大はずれ | トップページ | スポーツと暴力 »

アン・タイラー

07/10/08(月 祝日)

この歳になって突然体育会系になってしまったこともあり、ここ数年、本は、寝ると

きに睡眠薬代わりにサスペンス小説しか読まなくなっていた。サスペンスは、睡眠

薬としては不適切な面もあるのだけれど、何しろからだが気持ちよく疲れている状

態で読むので、私の場合ちゃんと睡眠薬代わりになってくれている。

しかし、ただの、犯人は誰?、動機は?式のものはつまらない。登場人物が魅力

的でないと。しかも犯罪者にもそれなりに共感できちゃうような人間性、社会性(背

景)が描けてないと、となかなか注文がうるさい。

で、お気に入りは、マイクル・コナリーとサラ・パレツキーなのだけれど、新作がペ

ーパーバックになるまで待たないといけないので(寝ながら読むからハードカバー

では疲れるし、値段も高い)、この2人の作品は、品切れしてしまった。

原書で読み始めた最初は、マイクル・コナリー。出ている訳本を全部読んでしまっ

たら、次が待ちきれなくなり、仕方なく、原書で読み出した。最初は、「え、殺された

のは誰だっけ?」と前に戻って確かめたりと、頼りない読み方だったが、だんだん

馴れてきて、警察用語などにも強くなったくらい。

読んでる最中は、もうボッシュに恋してる状態。ボッシュも好きだけど、エレノアも好

き。映画化したら、誰をキャスティングするかなんて考えるのも楽しみのひとつ。で

も、一方で、映画化はして欲しくないという思いもある。私が作り上げているイメー

ジが壊れて欲しくないから。

ま、そんなこんなで、ペーパーバックで出ている本は全部読んでしまい、最初に戻っ

て、訳本で読んだものまで、もう一度原書で読んでしまうと、読む本がなくなり、今度

は、これも訳本ではすでに読んでしまっていたが、パレツキーのヴィクシリーズに移

行。

パレツキーは、犯罪が企業犯罪なので、日本語で読んでもよくからくりが理解でき

ない状態だから、原文で読んでもまた新鮮に読める。パレツキーはコナリーよりむ

つかしい。知らない単語がバンバン出てくる。でも、その辺は、多分こういうことだろ

うと想像で飛ばす。ヴィクと隣人のおじいさんとのやり取りや、女友達(女医)とのや

り取りなどが楽しめる。事件そのものよりこっちのほうが魅力的。

で、この2人の作家の作品が底をついて、さて、困ったどうしようかなと。枕元に読

んでない本を入れてある紙袋が。2年前、事務所を辞めるとき持ってきたものだ。

私の好みを知って、カウンセリング講座の受講生や事務所のスタッフが「読む?」

と持ってきてくれたもの。読んでからamazonかBook offで売ろうと思い、そのまま

になっていた。

それを漁ってみた。最初に手にしたのは、デイヴィッド・マーティンの『誰かが泣いて

いる』。なんか、荒唐無稽、カンベンしてよ、と思いながらも、読まされてしまった。次

に同じ作家の『嘘、そして沈黙』。これは全く睡眠薬の効果なく、寝なくちゃ寝なくち

ゃと思いながら読まされてしまい、最後はとうとうフラダンスを休んでまで読んでし

まった。まだ、完璧体育会系にはなり切れてないらしい。

で、次に漁って出てきた本がアン・タイラーの『アクシデンタル・ツーリスト』。ミステリ

だと思って読み始めた。なんか事件起こりそうにないなあ、やめようかなと思ったが、

やめられなくなった。日常のディテールを事細かに書き連ねて、でもその筆力たる

やすごい! 読ませられてしまう。

結婚して20年になる夫婦が、1年前に12歳の息子を亡くしている。キャンプに出し

たら、犯罪に巻き込まれて後頭部を打たれて即死という状況で。それ以来、夫婦

の間にすれ違いの溝ができ・・・、とにかく夫婦の会話がズレまくり、あまりのズレさ

加減に笑ってしまう。こういう男ってうんざりだよな、私も一緒に暮らすのはイやだな

と思わせるような性格なんだけど、妻から「もうあなたとはやっていけない」と言わ

れて別居するところから物語は始まる。

しかし、まてよ、こういうのって、程度の差はあるけど、たいていの男は持っているよ

な、感情を押し殺して、変な理屈(本人は合理的だと思っている)で武装して。女の

ほうはそういうつもりで言ったんじゃないのに、というような応答を返してくる男。そう

気づくとますます面白くなってきた。

途中で、アン・タイラーって誰だ?と調べてみたら、普通の小説家。しかも、かなり著

名らしい。私が知らなかっただけ。何で、ミステリだと思ってしまったんだろう。実は、

書名も見ず読み始めて、一体何て題名と、表紙をめくってみたくらいなんだけど、き

っと、アクシデンタルという言葉をちらっとは見ていて、それでミステリだと思い込ん

でしまったらしい。

とにかく、久々に面白い作品に出会った。読んでしまったら売るつもりだったけれど、

売るのは惜しくなった。amazonで調べてみたら、この作品に限って値段が高い。絶

版になっているとかで、ますます取っておきたくなった。

読み終わって、では、他の作品も図書館で借りてこなくちゃなと、またしばらく読む

本の候補が出来たのは嬉しい。『パッチワーク・プラネット』と『夢見た旅』を読もう

と思って、念のためまた、紙袋を漁ってみたら、この2作品もちゃんとあるではない

か。ありがたい。パッチワークもなかなか。『夢見た旅』のほうは、出た当初に読ん

だら、もっと共感度が高かったかもしれないが、他の2作と比べるとイマイチだった。

『パッチワーク・プラネット』は、今読んでもなかなか示唆に富んでいて、味わい深い。

高校生の頃、ちょっとした犯罪を犯して捕まってしまい、更生施設系学校のような

所に入れられた経歴を持つ、離婚暦があって娘も一人いる(妻と娘とは別居)、今

は30歳になろうという出自はいい青年バーナビーが主人公。老人や障害者にサー

ビスを提供する会社で働いている。作品の冒頭、ひょんなことで知り合った年上の

女性との関係がどうなっていくのかという興味もあるけれど、バーナビーが仕事上

で関わる老人たちの現実や言葉が作品に重きを与えている。

私が特に気に入ったのは、老人たちが(人間が)いかに物を溜め込むか、死んでし

まったらただのゴミなのに、残された物に迷惑するのは子どもなのに、もしかしたら、

子どもが使うかもしれないとか、欲しがるかもしれないと、物を捨てられない老人た

ちの描写。

そうなんだよなあ。私も物を増やさないで、どんどんいらないものを捨てなくちゃなあ

と、あらためて肝に銘じたのでした。と、言いながらこの本はとって置きたいと思うこ

の矛盾(笑)。

さて、『アクシデンタル・ツーリスト』は映画化もされているというので、しかも、相手役

の女優が私の好きな女優のひとり、『テルマ&ルイース』のジーナ・デイヴィスだとい

う。ピッタリの配役だ。小説が完璧に再現されてるという期待はしないが、ぜひ観て

みたい。

アン・タイラーの小説は確かに何も事件は起こらない。しかし、登場人物の内面では

ちゃんと起こっているのである。人間は変わるのだということ、成長するのだというこ

と。そして、それは他者との関わりを通して変わり得るのだということが、気負いなく

淡々と描かれているところが感動ものなのである。

|

« 大はずれ | トップページ | スポーツと暴力 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

久々におじゃまします。
アンタイラー本は私がもっていったの。いっとき、本を片付けなきゃなーと思ってね。
でも、平安寿子を読んだ時に、この感じ、ん?と思ったら、タイラ・アズコ というペンネームは、アンタイラーからとったといっていて、なるほどと思ったのでした。それでまた図書館で借りてよんだりしてます。
楽しんでくれてうれしいです。

投稿: やつめ | 2008年1月 7日 (月) 13時51分

▲やつめさん

そうでしたか、そうだと思っていましたけど。
平安寿子?ヘイアントシコ?と思ったら、タイラ・アズコですか。
私も今度図書館から借りてきて読んでみます。楽しみ。
あれから、『ブリージング・レッスン』を読み、これもなかなかでしたが、
私の好みからすると、最初に読んだせいか、
No1は、『アクシデンタル・ツーリスト』でしょうか、
次は『パッチワーク・プラネット』かな。
『歳月のはしご』ってのも、面白そうですね。
また、順番入れ替ったら報告します。

投稿: てんぷう | 2008年1月 7日 (月) 14時58分

タイラ・アスコでした。
「グッドラックららばい」が私は好きです。

アンタイラーでいくと、『歳月のはしご』が好きかも。みな手放した後、ブックオフでみつけてまた買ってしまった(笑)。


映画は、男性はウィリアムハートです。「蜘蛛女のキス」の。本だけにしといたほうがよかったような・・・記憶があります。

投稿: やつめ | 2008年1月 7日 (月) 19時02分

はい、映画(DVD)はもう観てしまいました。
アン・タイラーは映画にするにはむつかしいと思うから、
あまり期待してはいませんでしたから、まあ、思ったよりかはよかったかも。
でも、私の好きなあのズレまくりの可笑しさは、描けていませんでしたね。
そうか、『歳月のはしご』ですか。
http://www.geocities.jp/m_dolphinh/goraku/tyler2.htm
ここで読んだ限り、そんな感じがしていました。

投稿: てんぷう | 2008年1月 7日 (月) 22時03分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 大はずれ | トップページ | スポーツと暴力 »